元より誰にとっての誰しもが 互いに無いものから始まるのに
共に有った時間などは今迄此の身を過ぎた時の総てからすれば極僅かで
共に永久にと言い做し繕うても 只今ですら互いに何処にいるのかすら知らず
然し幾ら賢しく言の葉を重ね言い訳したとて
焦熱を司る此の身が 零れ降り積もる思慕に灼かれるのは…
short period long distance
血風吹き荒ぶ広野に、敵のただ中たった一人身構える影。
辺りには辛うじて元は人型だったのではないかという消炭が幾つか転がっていた。
消炭以外には、どんな悪魔にでも遭ったのやら、血塗れの肉塊が此れ又幾つか。
血に照らう指先を軽く舐め上げ、佇む影…ニンジャが薄笑う。
「死にたい奴より掛かって来るが良い…一人たりとて逃しはせぬがな!」
にたりと紅く笑う口元を、風に煽られた藍天鵞絨色の首巻きが覆い隠す。
途端、龍が咆哮するかの如き爆炎が地を舐める様に疾駆した。
そしてやがて炎が静まり、焼けた大地に生の気配も消え失せる。
ひふ の…み よ …と転がる消炭の数を指差し、ニンジャは己が身を虚空に掻き消した。
「ニンジャ隊長、残党と逃亡していた首領が投降して来ました」
敵の返り血が血糊となりて、利き手の手甲が固まっている。
「拘束も取調べも総て任せる…」
外れぬ手甲に難儀しながら、ニンジャは部下に一瞥すら呉れずにぼそりと一言吐く。
「畏まりました…隊長、お怪我をなさいましたか?」
頻りに血塗れの腕を気にするニンジャに、部下が心配を隠さず聞いて来る。
如何にも人の善さそうなその様子に、ニンジャはこの殺伐とした組織には似つかわしくない印象を持つ。
が、本当はそうでは無く自分が余りに血に穢れ過ぎているのだとも良く解っている。
「…いや、大丈夫だ…気遣わせたな…」
慣れぬ乍ら何とか柔らかな笑みを作り返す。任務で何処ぞへ潜入した時の様に。
それを見た部下は心底安心した様に笑顔を見せ、敬礼して退出して行った。
…此処は、隊の施設などではない。
板切れと言っても差し支え無い簡素な扉…部下は静かに閉めたのに矢鱈に軋んだ。
今、ニンジャは超人特別機動警察隊の極少数の部下と共に星々を転戦している。
幾つもの悪行超人の組織があるこの宙域を制圧する為、秘密裡に隊を分けて不意討つ。
既に作戦開始からひと月以上…成果は上々だが、今ニンジャとアタルは繋ぎを絶っていた。
勿論故意にでは無く、恐らく二人何れかの居場所が通信が通じないのだろう。
今ニンジャと部下達がいる場所は、隠れ家としては悪く無いが荒れ果てた廃墟である。
潜伏に慣れたニンジャは特に気にもならないが…
長期の潜伏と連戦に、多分部下の士気は本当にギリギリの状態で有ろう。
後に仕事を残すのを善しとはしない質のニンジャだが、このままでは部下達を危険に晒しかねない。
…一度、退くべきか
アタル殿の方はどうなっているので有ろうか…
ニンジャは大声で部下に召集を掛けると、一度宇宙船への退避を指示した。