Schmetterling des Lichts

カーテンを引くと薄光る朝日が目に飛び込み、その眩しさにニンジャは思わず目を細めた。 「アタル殿、起きられよ」 窓を開けながら、布団の中で規則正しい寝息を発てるアタルに声を掛ける。 頬を擦る冷涼な朝の風が心地良く、ゆるりと目を閉じ風の音を聞く。 ひとつ 深呼吸。 それと 重なって 「…もう、少し…寝かせてくれ…」 …常の覇気が感じられぬ蕩ろい声でアタルが応じ、静かに息を吐く。 何時もの覆面を被っていない端整なその顔に、白い朝日が鮮やかに映える。 「アタル殿、もう随分と日が高いのだぞ」 ニンジャはアタルの横に つ と正座すると、寝崩れたアタルの寝間着の襟を正し乍ら顔を寄せ声を掛ける。 そして、アタルの唇を緩く撫で、触れるだけの口付けを落とす。 「今日は何処ぞに連れて行って下さると仰っておられたろ?」 薄く目を開けたアタルに、小首を傾げて零れる様な笑みを浮かべる。 「…あぁ、そうだったな…」 アタルは、ふッ、と息を吐き呼吸を整え身を起こすと、傍らに座すニンジャを緩く抱き締めた。 「何処に連れて行って下さるのだ?」 「内緒だ」 其れだけ呟くと、アタルは訝しげに自分の顔を覗き込んでくるニンジャの頭を優しく撫で付け、小さく微笑んだ。
「此処に寄るぞ」 アタルは、自分の少し後ろを歩いていたニンジャの手を取ると、一軒の店の暖簾をくぐった。 壁には緋織の薄掛が架かり、柔らかに香る桐の棚には、見惚れるばかりの麗やかな光沢の白絹が並んでいる。 一目見ただけで豪奢な、其れでいて洗練された上物と分かる物を扱っている所を見ると、大層な老舗の様だ。 ニンジャは、アタルが店子と何やら話し始めたのを、何と無く所在無げに見つめていた。 が、誰ぞの此方に歩み寄る気配を感じ、其方に気を向ける。 「アタル様、お待ち申し上げておりました」 店の奥から出て来た店主と思しき男が、アタルに近づき恭しく頭を下げる。  斯様な所は任務でなら来た事は有るが…流石アタル殿は出自が良いだけあって馴染なのだな… 誰がどんな店に馴染があろうが、そんな事はどうでも良い事なのだが、ニンジャはぼんやりとそんな事を考える。 「あぁ、本人を連れてきたぞ。早速例の物を仕立ててくれ」 「畏まりました」 男は、ニンジャに近付くと静かに一礼した。 「?」 「アタル様より、ニンジャ様へ贈られる浴衣の仕立てを承っております。今から採寸して仕立てます故」 「な、アタル殿?!」 狼狽するニンジャに、アタルは黙って微笑みかける。 「さぁ、では奥へ」 「え?ちょっ…待っ…」 黒地に白と銀の綴れ錦の蝶が舞う、艶やかな浴衣を纏い、ニンジャは困惑の消えない表情にて佇む。 軽く結い上げた漆黒の髪と浴衣の墨染が、僅かに朱に染まる白い肌を一層官能的に際立たせる。 「ほぅ、此れは…素晴らしい仕立てだな、店主」 「ニンジャ様は色白でらっしゃいますからな、あの一幅を見立てられたアタル様の慧眼は流石で御座いましたな」 店内にいる他の客や店子達も、ニンジャの姿に見惚れ、感銘の溜め息が其処此処より漏れ聞こえる。 「あ…アタル殿…」 「さぁ、では行くか」 何処に、と言う間も無く、アタルは今までニンジャが纏っていた服を包んだ袋を持ち、ニンジャの手を取り店から出る。 ニンジャはアタルに手を引かれながら、見送る店主達に一礼した。
アタルがニンジャを連れ、寄り道をし、目的地と思しき場所に漸く辿り着いた頃には、既に日は傾き始めていた。 そこは、二人が寝食を共にする部屋からそう遠くない神社だった。 普段閑静な神社には多くの人が集まり、的屋が軒を連ねている。 「…そういえば今宵は此処で祭りをやっているようだが…目的地は此方か?アタル殿」 浴衣が漸く肌に着馴染んだのか、ニンジャはぱたぱたと腕を動かし器用に袖口から涼を取る。 「…前に、幼い頃祭りに行って楽しかったとか話をしていたろう」 アタルが、静かにニンジャに語り掛ける。 「…あ、あぁ、確かに」  …確かに 斯様な話を した覚えは 有る  しかし何ぞの話の流れで言の葉に流れただけで、アタルが覚えているとは思っていなかったニンジャは少々戸惑った。 「お前には始めて逢った時からずっと苦労の掛け通しだからな、たまには、こう…な、童心に還ると言うか、な」 「…アタル殿…」  此方が乞うて側にいるのに … 何と有難いお心遣いを … ニンジャは僅かにアタルに近づくと、擦る様な小声で呟く。 『拙者、此処が人前で無かったら、アタル殿に抱きつきたくなったぞ…お心遣い、深謝する…』 『抱きついても良いぞ』 アタルが巫戯蹴る様にニンジャの袖を引くと、ニンジャは己の纏う浴衣に舞う蝶の如くふわりと身を躱し、艶かに微笑んだ。
「ほう、この銃で飛ばしたコルク栓であの台から落とした物は頂けるのか」 「そう、弾は1回5発で200円だ。お兄さん、挑戦してみるかい?」 「2回やる」 店主に小銭を手渡すと、ニンジャは すぅ と息を整え銃を構えた。 照門から照星を見遣り的を絞ったその先には、マルボロがちょこんと置いてある。 「…ニンジャ、お前煙草なんか吸わないだろう」 訝しげに声を掛けるアタルに、ニンジャは口の端を吊り上げにやりと笑いかけ、中指と紅差し指で自分に近づく様煽る。 「…ああいう小物で銃の癖を見抜くのだ…拙者の真の狙いは、アレだ…」 視線の先には、かなり大振りな"すぬーぴー"が鎮座していた。 「…お前はああいうのが好きだったのか?」  ばすっ  鈍い音がして、コルクがマルボロを打ち落とす。 「違う。かよ殿にやるのだ」 「かよ殿、て、豆腐屋の娘さんか?」 「あぁ、いつも買い物に行くと色々おまけしてくれる故」 「義理堅い事だな…しかしアレはどう見ても客寄せ用だろう」 「…アタル殿、何事にもツボというのが有ってな、要はそれさえ見抜く眼力が有れば…」  ばすばすばすっ 小気味良い音を発てたコルクの三連発は、見事に台座から"すぬーぴー"を打ち落とした。 周りから驚嘆のどよめきと歓声が上がり、いっきにギャラリーが増える。 「…これしきの事、容易いのだ…」 「…大した、ものだな…」 「ふっ、観客が増えた所でもう一つ行ってみるか」  ばすばすばすっ 言うが早いか、今度は"みっふぃーちゃん"が台座から落ちる。 「おい、二つは要らんだろう」 「先程かよ殿がご学友と一緒におられたのを見かけたのでな。かよ殿だけにやるのは悪かろう?気を使わせるからな」  ばすばすっ 店主の、もう勘弁してくれと言わんばかりの顔を嘲るかの様にゲーム機の箱も台座から落ちる。 「アタル殿、アレが有れば暇つぶしにはなろう?」 「…本当に、何処までも気の回る事だな…」 戦利品を渡され、ニンジャは不敵に笑い、呟いた。 「ふ…まぁ、ざっとこんなものだ」 「おいニンジャ、まだ一発残っているぞ」 「…あぁ、そうか……では…」 銃を構える台に戦利品を置き、ニンジャは再び銃を構えた。しかし今後は片手で、照準も合わせず。 その、銃口の先には… 「おい、私を撃つつもりか?」 「然様。首尾良く倒れてくれると有難いのだが…」 ニンジャは銃を構えていない方の人差し指を唇に当てると、悪戯っぽく笑い、引金を引いた。  ばすっ 片手で弾いた銃の反動で、浴衣の蝶が夜闇に舞う。そしてアタルはばったりと地に伏した。 ニンジャの神業の如き銃撃に魅入っていた周囲のギャラリーから、この"パフォーマンス"に歓声が沸く。 悠然とアタルの側にしゃがみ、周囲に気取られぬ程の小声でニンジャが囁く。 「…此れで、アタル殿は拙者のものでござるな?」 「…心を、射貫かれてしまったからな」 その答えに満足したか、ニンジャはアタルの手を取って起こしてやると、甘やかな笑みを浮かべた…
「アタル殿、一つ持つのを手伝って欲しい…」 「自分で取ったんだから自分で持つんだ。かよちゃんを見つけるまでは辛抱しろ」 「…でも、二つは重いで御座る…」 「バッファやアシュラににアパランシュホールド掛けるかと思えばずっと軽かろう」 「人にジロジロ見られてるし、冷静になると恥ずかしいのだ…」 「見られてるのは、お前が美人だからだよ」 「絶対、違うと思われる…」 「それに、"それ"持ってると可愛らしさが一層引き立つぞ」 「……アタル殿は 意地が悪いで御座る…」 ニンジャは腕に抱えた、"みっふぃーちゃん"と"すぬーぴー"に顔を埋め、上目でアタルを見遣りながら、拗ねた様に呟く。 「…それに、どう考えても絵面的に私がそれを持つよりお前がそれを持った方が良いだろうしな」 「みっふぃーを抱えるアタル殿も素敵だと思うぞ」 「それに私だってゲーム機を持っているから手は空いていないぞ」 確かにアタルの手にもゲーム機の大箱と、ニンジャの服が入った袋が有るから、どちらにしても縫包みは持てないだろう。 「く…調子に乗り過ぎたで御座る…」 「はしゃいでいるお前を見るのは楽しかったがな…ほら、かよちゃん、あそこにいるぞ」 「あ、本当だ」 漸くこの大荷物を手放せるからか、ニンジャは縫包みを持ったまま器用に浴衣の裾をたくし上げると一気に駆け出した。
「今日は本当に楽しかったで御座る。アタル殿のお気遣い、重ねてお礼申し上げる」 帰宅するや否や、ニンジャは浴衣を纏ったままアタルに正座で正対し、深々と頭を下げた。 「あぁ、そんなに畏まらなくても…」 ニンジャの行動を制しようとし、アタルが言葉を留める。 「…如何されたか、アタル殿?」 「…色っぽいな、その格好…」 そのままアタルはニンジャににじり寄ると、いきなり自分が纏っていた覆面を脱いだ。 そしてニンジャの襟を割り手を差し入れ、首筋に口付ける。 「あ、アタル殿ッ?!」  頬を紅に染め身を引き掛けるニンジャを、アタルの腕が確りと捕らえる。 「…このまま、して良いか?」 「いッ嫌ッ、汗かいたし、まだ風呂にも入っていないしッ!!」 「気にするな」 「いッ嫌々ッ、アタル殿!!気にして欲しいで御座るーー!!」 「私の心を射貫いたのだから、そこはまぁ、それなりの、な」 「あぁッ、や、止めッ……折角お心遣いに感激してたのに幻滅で御座るよッ…」 「まぁ、そう言うな」 …ニンジャの視界の端に、窓硝子に薄く透ける月の光が事此処に何も無いかの様に白く光っているのが映った。 唇を舌先で緩くなぞられ、そのまま柔らかく口付けを落とされる。 綺麗な視界と、優しい感触。 その心地良さに、ぼんやり流され、ニンジャはアタルの背に腕を回しその躯を抱き締めた。 __________________________________________________ ラブラブアタニンです!!…大層なバカップルだなオイ!! 次ページはおまけのエロです。エロ許容できる方は GO!!…って、誰も見て下さらない可能性ががが 18/OCT/2004 --------------------------------------------------

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