頬を擦るのは 冷涼と言うには凍て枯れた風

しかし総身逆毛立つような悍ましさは 風の所為などでは無い

血塗れ息絶えた愛弟子が腕の中で冷たくなりゆくのを 如何する事もできなかった

それなのに 愛弟子を殺めた男を未だに恋い慕うこの想いさえも 抑える事ができなかった



Reminiscence

不意に 胸に墜ちてきた  息苦しさに  目が覚めた   … 夜闇に滲み融ける様な、部屋の中の漆黒の闇。 床から躯を離さぬまま、ニンジャは未だ毀れている精神を練気し、すぅ と小さく息を吸う。 闇に目が慣れると、自分の胸の上に投げ出された腕を、手を取り指を搦め、僅かにずらす。 すると、腕を触られた事で目を覚ましたか、腕の主はそのまま身を起こし、ニンジャを組み敷く様に覆い被さった。 「…何だ 誘ってんのか?」 「…重いから除けようと思っただけよ…寝相の悪、ぅ…」 悪態を吐こうとした口を、口付けで塞がれる。 藻掻き逃れようとするニンジャの躯を、易く圧え、首筋に舌を這わせる。 「ん、ぅ…ハ、ハンゾウ…止せ…先程したばかりだろうが…」 頬を朱に染め、擦れる声を紡ぐ。薄らと熱が残る躯には未だ力が入らないのか、ニンジャは僅かに俯いた。 「…アンタって、結構淡泊だよな」 「…もう、若くは無いからな」 「そんな事無ぇよ」 言いながら、ハンゾウは手を止めニンジャの躯を抱き寄せる。 「まぁ、じゃ、これならイイだろ?」 「…あぁ」 ニンジャはハンゾウの体に身を預け、目を閉じた。自分の肩を抱く腕の心地良さに、ゆるりと微睡みに落ちゆくのを感じる。 ハンゾウは、小さく寝息を発て始めたニンジャの額に軽く口付け、その身を緩く抱き締めた。
場末の酒場で、薄暗い店内の奥に設えられたソファに身を凭れさせ、ぼんやりと視線を泳がせる。 紫煙燻り、香が焚かれ、快楽と退廃に彩られた、それでいて寛闊な夜の底へと誰をも誘う箱の様な店。 常の姿である忍びの黒装束は脱ぎ去り、ビスに縁取られた漆黒のレザーに身を包み、何も考えない。 此処では何者でも無い、ただ一個の躯として、無為に時間を潰し、流す。 最近覚えた、遊びとも言わないが、言うなればストレス解消法。 酒の中に浮いていたチェリーを摘まみあげ、きゅ、と薄く開いた唇に寄せる。 冷たい酒が滲みたほの甘さが唇に快く、目を閉じ、味わう。 そして果肉に歯を立てて、柔らかい実が果汁を溢れさせ 僅かに口の端から零れた、その瞬間。 『アンタ、ザ・ニンジャだろ?』 声を掛けられ、掌の中のグラスに かつん と声の主のグラスを打付けられる。  此処で自分に気づく者がいるとは…  軽い動揺を噛み殺し、息を吐く。 顔を上げると、そこには鬼の様な面で顔を覆った男が口の端を吊り上げるだけの笑みを浮かべていた。  この 鬼の面、は… 『…お前は…ハンゾウ…だな…?』  "鬼畜"ハンゾウ…腕に仕込んだ刃にて被害者の顔の皮を剥ぐという、残忍な手口で殺戮を続ける犯罪者。  その非道の悪名は 全宇宙に陰惨な恐怖とともに轟いている。 何故 此処に … そして 何故 此方に態々接触して来るのか 急に喉が灼け乾く程の緊張が全身に走る。それを気取られぬ様に、また息を吐く。 『あぁ』 ハンゾウは不敵な笑みを崩さぬまま、ニンジャの隣に悠然と腰掛ける。 『拙者に、何用か? …よもや此れ迄の所業を悔いて自首しに来た訳では有るまい?』 場の雰囲気に融ける様な軽口で、ハンゾウに言葉を投げる。 チェリーの果肉を飲み下し、艶めく唇に艶やかな笑みを浮かべ、動揺を抑え込む。 得物を手放した姿である事を後悔しながら、緊張で乾き始めた唇に舌を這わせた。 『アンタを 口説きに来たのさ』 『…何?』 ハンゾウは、ニンジャの顎に手を沿えると、親指の腹で下唇に指をなぞらせた。 『く』 不意に与えられた僅かな快楽に、ニンジャは抵抗もできず小さく唇を噛み、眉間に皺を寄せる。 『そんな顔するなよ。美人が台無しだぞ』 それに此処じゃ暴れて俺を捕まえるのも出来ねぇだろ? と 小さく笑い、グラスを呷る。 『……どういう、つもりだ』 『別に…ちょっとアンタの事気に入ったから、お相手願おうかと思ってね…無聊の慰めにはなると思うぜ?』 常の態なら捕縛してやるものを…舌打ちしたい様な苛立たしい気持ちが沸き立つ。 …しかし今は此方が不利だ。此奴には回りの者共なぞいないも同然だ。何と答えたものか… 『ふ…ん…拙者に寝首を掻かれるかもしれんぞ?…逢わなかった事にしてやるから早々に…ぅ』 ソファに緩く押し付けられ、唇を重ねられる。意外にも柔く食む様な優しい接吻に、思わず応じてしまう。 それに気を良くしたか、ハンゾウはニンジャの腰を捕らえると、引き寄せる様に抱き締めた。 『…早々に失せろ、って?そんなにつれなくするなよ』 耳元で囁かれ、ニンジャが身を強張らせる。それを溶き解す様に、ハンゾウはニンジャの背を撫付ける。  その手に悪意が感じられない事が 不可解で 不快だ しかし自分にも回りの者共にも害為す気配が無い事は感じ取れる。ニンジャは刹那に思いを巡らせ、口を開いた。 『…分かった、相手をしてやろう…』 低く呟くと、ニンジャはハンゾウの背に腕を回し、着衣の裾を握り締める。  どうせ無頼者の気まぐれなのだから、今日は日が良くなかったと思う事にしよう。  …それに巧くすれば此奴を捕縛できるやもしれんしな… 『決まりだな。じゃ、此処出ようぜ』 ポケットに捻じ込んであった紙幣を数枚、馴染になった店長に投げ渡し、二人並んで夜闇融ける店外に出た…
薄く漉いた障子紙に透け、しっとりとした朝日が差し込み、目が覚めた。 既に何時もの如く、横にハンゾウの姿は無く、昨夜の情交の後さえ気取られぬ程、何も無い、臥床。 乱れた髪を掻き上げ、溜め息を吐く。 …こんなに長く付き合う気は無かったのだがな… 気怠い躯に、儚く撒る朱だけが、昨夜の事を現実に引き留める楔。 …正直、情が移りかけゆくのを抑えられない。 一夜だけ 躯だけと 最初は … そう 思える筈だったのに  暖かい腕 優しい抱擁 仮初めの蜜夜に溺れる程 自分は孤独だったのだと 気怠い躯に 想う …今更の 言い訳を したい訳では 無いのだけれど 
−−"鬼畜"ハンゾウが、追跡中のキン肉星の超人警察隊隊員十数名を殺害し逃走中−− モニターに映る報告の重要度がLandhouseからfirstfaceに切り替わるのを他人事の様に見ていた。 cautionがemergencyに、marked manがwantedに−つまりは、超人特別機動警察隊の出動要件となる危険度。 超人特別機動警察隊本部詰所にて、精鋭を選りすぐり   乍ら  考え る 。  …所詮 斯様為るのは 目に見えていた 筈 なのだと
『…好きだ』 美人だ とか 綺麗だ とか 揶揄いの如き賛辞は山程 そして 愛の告白は 今 初めて 突然紡がれた 言葉を 望んでいたのだと 躯は反射的に理解して お前を 抱き締めたのに   『為れば もう 誰も、殺すな…』 そして 罪を償って 共に此処に居て 『…人を殺めるな、と?今更罪を償ったとて 生有る内に娑婆に出る事など叶うまいよ』 緩やかに己の背を撫付ける手は 何時もと変わらず優しくて …甘やかに 耳元に唇を寄せる。 共に此処に、ってのは 魅惑的な言葉だがな … 小さく呟き ハンゾウはニンジャに軽く口付け、そして… 『…キン肉星王宮を襲う。強者が揃っているからな、さぞコレクションも充実するだろうよ』 『……正気か、ハンゾウ…』 全身から血の気が引き 足元から 世界が崩壊する様な 天が墜ちてくる様な … 目眩がする  … それでも 事此処に至り 崩折れそうな総身を支えるハンゾウの腕に身を委ね、心地良いと思ってしまう…
禍々しいばかりの殺気を孕んだ風。そして、その殺気の源を成す、男と対峙する。 目の前の"鬼畜"ハンゾウに、流石の精兵達もすっかり気圧されて、誰も間合いを詰めて行こうとはしない。  此のままでは 埒が明かない … そう 思い始めた その時。 自陣営から一つの影がハンゾウに挑み掛かった。そしていとも易く返り討ちに遭い、面を剥がれ、死に逝く。 反射的に投げ打った擲縄は、ハンゾウの首に絡み纏い、捕縛する。  どれ程躯を重ねても 所詮は あの一夜の 縁だったのだ   それならば せめて此の手で …   「 逢わなかった事に してやる …」 ニンジャは、捕らえられたハンゾウの耳元に口を寄せると、誰にも聞こえぬ程の微かな声で囁いた。  「 …ふん ならば此方は ずっとお前を殺してやりたいとでも 思い続けてやるよ 」 吐き捨てる様な口調で、目も合わせずハンゾウが応じる。 そして、ニンジャの去り際、忍びの者にしか聞き取れぬ空気の掠れの様な声で、もう一言… 『…それでも アンタが 好きだ』 腕の中には 血塗れ冷たくなった愛弟子  警察隊に引き立てられ連れて行かれるのは 愛しい男  失ったものが 多過ぎて 思考が纏まらないのに   無残に 顔の皮を剥がれて 死んで逝った愛弟子は 二度と還らないのに  …それでも アンタが 好きだ  一番 心に張り付いているのは 好きだと言われた事への 悦び それでも 何もかも もう二度とは 戻らない どす黒い血に塗れ冷えきった愛弟子の骸を胸に抱き締め…  それでも 自分もあの男を愛し続けるのだと  楔を穿たれた様な胸の苦しみに 熔ける様な熱を孕んだ涙が一雫 冷えきった頬を伝った。  __________________________________________________ ハンゾウ×ニンジャ!!ラブラブですラブラブ!!←反省文 提出要。イヤイヤ一色的には物凄く甘々ラブラブvV☆な 話を書いたつもりなんですがQ.何で破局してるんだろう ←A.それはカップリングの性質上已むを得ないかと。 24/SEP/2004 --------------------------------------------------

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