Lovers sabotage

 冷風吹き荒ぶ夜闇に 爆ぜる様な殺気が 煽れ 融ける。  周りを取り囲む敵の多さに 辟易しながら 互いの背を合わせ 囁き合う… 『…アタル殿、此奴等、数が多過ぎる…埒が明かんな』 『…全くだな…どうしたものか…』  敵の輪が二人を追い詰める様に 僅かに じり と小さくなって来た。  野分立つ風が 既に斃した敵の骸を煽り 二人の総身に 鮮血を生臭く纏わり付かせ 息苦しさを齎す… 『…時間を稼ぎ、増援を待つか……一点突破し、血路を開くか…決め時は、今だぞ』 『………或いは、殲滅させる手立てに総てを賭けるか…』  アタルが、視線だけで敵の一点を見遣り、ニンジャに それ を見る様に促す。  促されるままに それ に視線を流したニンジャは 驚愕に息を飲んだ。 『……巫戯蹴るな…斯様な事をすれば、我々まで無事で済むとは思えんぞ…』 『…流石に察しが良いな、お前は…大丈夫だ、任せておけ…』  アタルは ニンジャに二言三言何事か囁く。  已むを得ぬ と ニンジャは小さく応え 呼吸を整えた。  そして二人は腰を低く落とし 歯を食い縛ると 迫って来た敵の 一斉攻撃に備える。  それを見 この二人に未だ抗戦の気有り と見て取った敵は "二人の思惑通り" 一斉に掛かって来た。 『…今だ、ニンジャ』 『…承知!息を止められよ、アタル殿!!』  その応えに小さく頷くと アタルはニンジャの躯を抱え 先程目星をつけた それ から遠避かる様に一気に駆け出す。  そして 眼前の敵の一団を薙ぐと ニンジャの躯を庇う様に地に伏した。  ニンジャは 大きく息を吸い込むと それ に向かって 紅蓮に逆巻く焦熱の焔を吹き掛ける。  敵が持っていた それ …"RDX"と書かれた小箱を焔が搦め捕り 真紅の火柱が熾こると 焔は猛烈な爆炎と姿を変えた。     RDX...爆発熱:1300cal/g 爆発生成ガス容積:908リットル/kg 爆速:8350m/sec±     鋭敏で爆発し易く 爆発威力も高い 煙は有毒で 体内に入ると癲癇症状を発する   此れを持ち出す狙いとしては 熱と麻痺で二人を捕らえ 或いは殺そうという所であろうか  融点が204℃とやや高いが ニンジャの吐く焦熱の焔なら問題無い…  まさに"業火"と化した焔が 敵を一気に包み 燃やし尽くす。爆風が治まると 敵の数は激減していた。  残った者にした所で 突如熾こった業炎の炸裂に算を乱している木っ端の如きを片付けるは非常に容易であった…  そして敵を総て屠り尽くし 強風が煙を全て流し尽くしたのを確認すると 二人は漸く緩く息を吐いた…
 超人特別機動警察隊本部に帰還した二人は、総司令室にて先の件の事後処理に手を付ける。  まだ負った傷も生々しいが、仕事を後に残すを善しとしない性分の二人は、黙々と残務を熟す。  そして略全て片付くという所で、書類に目を通しながら、突然アタルが口を開いた。 「…今回は、少し疲れたな…」  傷を手当した包帯に、薄らと血が滲み、覆面で表情は隠れるものの、口調には言葉通り疲労が滲む。 「…うむ…まさかあれ程の多勢とはな…してやられたな…」  瑣末な仕事の指示を内線端末で部下に指示しながら、ニンジャも疲労の色濃い声で応える。  アタルは、部下に託す分の書類に手早く指示を書き込み、スキャナでデータを取ると、それをファイルに止めた。 「…やっと終わったな…」  ファイルを書棚に入れて施錠すると、アタルはフルカバーアームに着座するニンジャの側に寄り、ニンジャの躯を抱き寄せる。 「……疲れた…」 「…然様か……しかし、アタル殿…此処では斯様な事はなさらぬ約束ではないか」  そう言いながらアタルの腕から逃れようとするニンジャを、アタルは確りと抱き締めてしまう。 「……アタル殿…」  逃れるのを諦めたニンジャは、アタルの背に腕を回し、子供をあやす様に優しく撫で付けてやる。  暫しの間、二人は緩く抱き合う。やがて、アタルが静かに呟いた。 「…ニンジャ、たまには二人でゆっくりしないか」 「……?」 「部下に全部仕事を任せて、こう…一日ゆっくりと、一緒に…過ごすというか…」 「?今日も日がな一日ずっと一緒であったろうが。ゆっくりはしておらんが」 「…イヤ、確かに…それは、そうだが…ああいう血煙や炸薬に咽ぶ様な場所でなくてだな…」  アタルにしては歯切れの悪い言の葉に、ニンジャがずばりと切り口を求める。 「つまり、御自身は怠業なされ、更にその上で拙者にも怠業するを求められ、共に怠惰な一日を過ごされたいという事か?」 「…そこ迄言うか…」  核心を突いているが故に身も蓋も無い言葉に、アタルはニンジャに抱きつきながらがっくりと肩を落とす。 「…イヤ、拙者は別に委細構わんが」  日々悪が犇めいている訳でも無かろう?とニンジャはアタルの背をあやしつける様に撫でた。 「本当か」 「アタル殿がそうされたいと仰られるなら」  自分を捕らえるアタルの腕の中から するり と抜け出し、ニンジャは内線端末をシャットダウンする。 「あぁ…一寸、な…此処暫くお前だけと過ごす時間が無かったから、是非、な…」  アタルは、専用回線を離席モードにし、自動リプライ機能を起動させた。  …これで、二人の元には最重度の連絡以外は入らない。つまり、瑣末な「邪魔」は一切入らなくなる。  「そうだな。折角抱き締めて頂けるのなら、先の様に炸薬の破裂から身を護るなどという事は抜きの方がな」  総司令室から全館連絡で、明日の二人の不在を簡略に報らせ…初めて、二人揃っての怠業を敢行した。    超人特別機動警察隊本部内を一巡すると、初めての事態に何と無くざわつく雰囲気を目の当たりにし、二人は小さく苦笑した。

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