fed up with me? _appendix
超人特別機動警察隊にて副長を務めるザ・ニンジャが、その司令官兼総隊長であるキン肉マンソルジャー…とは通り名で、
キン肉星大王の王兄、キン肉アタルよりの愛の告白を受け入れ、所謂恋仲となりまだ程無い頃。
ニンジャは、自身には アタルが向けてくれる様な滾る激情に近い愛情は 持ち合わせていない自覚が有った。
然し乍ら、アタルが自身を恋うてくれるのは素直に嬉しいと思う…これは確かに恋情では無いかとの自覚も、また有る。
告白を受け、そのまま自身にて自分の本心の有り様に穿鑿を入れぬまま 肉体関係を持ってしまった。
不快では、無い。快楽も、享受する。だが、ニンジャは自身がこの恋愛に対し不実では無いかと苦悩するのだ。
否、この煩悶こそが、自身がアタルに恋情を持つ証左では無いか、と思えども、ニンジャには何もかもが割り切れない。
アタルの気持ちに甘えて、自身からは何も与えていないとわかっていたとて、どうして良いかは判らぬのだから。
否、此の身を与え差し出す事のみで 自分からは付き合いとしての義理を果たしていると言い切れれば どれ程気が楽か。
―言われるまで 慕われる気持ちなど何も気付きもしなかった癖に 手に入れれば 失いたくは無いとは 何と強欲な事か …
普段ならば 自嘲の笑みにて片付けるのに、それすら唇に乗らぬ程、憂悶は仄暗く、ひたすらに深い。
そもそも、ニンジャが何故これ程迄に 苦衷甚だしい倒懸の胸中に苛まれているのか。
―その原因は、¨超人血盟軍¨の仲間にして、悪魔騎士時代の同僚アシュラマンが放った言葉に有った。
超人特別機動警察隊として日々目紛るしく働くアタルとニンジャでは有ったが、有る程度組織として外郭が固まるにつれ、
僅かにでは有ったが、余暇や休息の取れる余裕が増え、たまにでは有るが二人揃っての休暇も得られる様になった。
そして 仕事がてらでは有るが、二人揃って地球に立ち寄った折、ブロッケン邸に超人血盟軍で集まろうと言う話になり。
まぁ集まったとて、御座成りな近況の報告以外は酒を肴に酒を呑む様な大虎どもの酒宴しか行われないのだが。
そんな中で、酔いを冷ます とアタルが庭に散歩に出て行き、それにバッファローマンが追随した。
ブロッケンJr.は、ならばこの間に皆の寝室を用意してくる、と部屋を出て行く。
二人残ったアシュラマンとニンジャは、悪魔騎士時代からの長い付き合いも有り、引き続き和やかに杯を傾けていた。
その気安い会話の最中、然も世間話の如くアシュラマンがニンジャの杯に酒を注ぎ、笑い掛けながら、唐突に…
「…まぁ、ソルジャーなら間違いは無いな。良かったじゃないか」
―勘の良い魔界の王子だ、何の話だ と此方が白を切ったとて、誤魔化しは利くまい。
「…うむ…だが何故判った…?」
例えアタルが隣にいたとて、自分に弛みが出ぬ自信が有ったニンジャは、気取られた驚きで素直にアシュラマンに問う。
「判らん訳が無い。ソルジャーの視線は、我々と話す時以外はずっとお前を向いているんだから」
アシュラマンは揶揄いを多分に含んだ笑い面の笑みを一層深くし、ニンジャの瞳を見据える。
「…そうなのか」
ニンジャは、その視線を外し乍ら覚束無い返事しか出来ない。自覚は無いのだから。
「寧ろ、有れ程の熱い視線を受けておいて 全く気付かんお前が凄い。少しは愛想良くできんのか」
―そう言われれば 有れ程迄に敬愛していた悪魔将軍にさえ 心からの笑顔など見せた事は 無い
自分の笑みには常に昏い愉悦が隠り 心より晴れやかに笑った事などついぞ無いかも知れぬ
「ソルジャーに愛想を尽かされたら如何する、ニンジャ。お前の暗く気難しい性根を甘受する人材など希少だぞ」
「…う ぐ…」
自分に愛想が無い事については、多分に心当たりが有り過ぎるニンジャは、言い返す事も出来ない。
一方、その頃。
「いやぁ、まさかアンタがニンジャを好きになるとはなあ」
冷たい夜風に煌々と輝く月明かりの下、のんびりと庭を散歩している最中、バッファローマンが唐突に呟く。
「な、何ッ?!」
その言葉にアタルは明らかに狼狽えるが、バッファローマンはそれには構わず言葉を継ぐ。
「いやいや、あんなにずっとニンジャの事ばっかり見てりゃ流石にわかるだろ。
…あいつさ、まぁ過去に色々有ったし…凄ぇ無口だしいつも一人で何でも堪えて抱え込むけど…
本当は、結構いい奴なんだよ…大事にしてやってくれよ」
―ニンジャの過去…それは愛も信頼も 残酷な奸計と裏切りにより いちどきに全てを喪い…
その絶望から悪に身を 命をも投げ棄てた 彼の闇そのものを成すもので有った
「あぁ、勿論だ」
情を抜きにしても、ニンジャは常に自分に付き従い、全力で己が身を捧ぐが如くに翼賛してくれる。
その彼を 照らす光には成れずとも せめて 闇の中でのぬくもりで有りたいのだ
酒の席もお開きになり、適当に片付けを終えたら、各々寝室へとばらばらと引き上げる。
その中で、アタルはニンジャが珍しく自分に物言いたげな視線を向けているのに気付いた。
だが、視線が合うとニンジャは ふい と視線を外したので、気のせいだったかとそのまま寝室に入る。
その背を見送り、一つ溜息を吐き、ニンジャも自室に入った。
そして、下衣は脱いで寝間着を纏い、頭巾を外し、ベッドに腰掛け 髪を梳き櫛にて整え…
短くは無い自問自答と煩悶にて、漸く一つの考えへの 覚悟を決めた。
…アタルに対して何も与えられぬなら、せめてアシュラマンの言う通り¨少しは愛想良く¨出来ぬのか と。
「……よし…」
誰が聞いているでも無いが、自らの意思を自らに伝えんが為にか、ニンジャは一言呟いた。