DIPTEX

   … トリプタミンに2つのイソプロピル基を配する だったな …  1mg匙で慎重に分量を量り、合成した薬物に亜硝酸アミルを加える。  エフェドリン は 無いしな … フェニルプロパノールアミン入れてみるか  空気が流れない様に、密閉した部屋は蒸し暑く、流れる汗がだくだくと頬を伝う感触が不快だ。 しかし、『過日の様なニンジャの姿を見る為』、という非常に善くない心根の元、薬の生成に集中する。  所詮全て混ぜた所でこの組成なら無味無臭だ 態々錠剤にしなくてもイイか…その方が都合イイかも知れんしな… 全て混ざった薬がビーカーの中に出来上がった時、部屋の外から此方に呼び掛ける声が聞こえて来た。 『アタル殿ー?茶が入ったぞー?』 「…ん?あぁ、今行く」 ビーカーの中身を試験管に移し替えると、ゴム栓を施し、上着の内ポケットに潜ませる。
「朝からずっと何ぞ熱心な事だな?」 何をされておられるのだ?と問いかけながら、ニンジャが笑顔でアタルに茶を差し出す。 「…あぁ、少し調べ物が有ってな。ついさっき終わったんだ」 「然様か。あ、アタル殿、栗の渋皮煮とか食べられるか?」 「ん?そんなの有るのか?」 「あぁ、商店街の入り口に和菓子舗が御座ろう?そこの新商品の試作とやらで、一瓶頂いたのだ」 宜しければ直ぐお持ちする故、と割烹着を脱ぎながらニンジャは す と膝を立てる。 「そうか、じゃあ、貰おうかな」 「うむ、では少々待たれよ」 そう言ってニンジャは台所に向かった。目の前に置かれた自分の湯飲みに手を遣った瞬間、ふと 思い立つ。  … これは いきなりだが チャンスじゃないか ? アタルは上着の内ポケットから試験管を取り出すと、慎重に中の液薬を数滴だけニンジャの湯飲みの中に落とす。 薄緑の茶の上に僅かに波紋が広がり、また何事も無い様に静まる。 また試験管を内ポケットにしまい込み、此方も何事も無い様に、自分の湯飲みを手に取った。 そこに、黒の塗盆に小鉢に装った栗の渋皮煮を乗せて、ニンジャが茶の間に戻ってくる。 「お待たせ致した」 小鉢に青竹の楊枝を沿え、それに渋皮煮を一つ刺して、アタルの前に差し出してくる。 「さ、召し上がられよ」 「あぁ」 楊枝を手に取りながら、アタルはニンジャの手元に有る「薬物入り湯飲み」をちらりと見遣る。 何も知らないニンジャは、アタルの隣に着座すると湯飲みを手に取り茶を こくり と呷った。 アタルは思わずガッツポーズしたい衝動に駆られるのを必死で抑え、渋皮煮を口に運ぶ。 「…旨いな」 糖が染み込んだ渋皮が、求肥の様な食感で、仄かに香るブランデーの香りが栗の甘みを引き立てている。 「然様か。ならば拙者も一つ頂こうかな」 「食べさせてやろうか?」 「遠慮致す」 「そう言うな。ほら、口開けろ」 アタルは楊枝に渋皮煮を一つ刺し、ニンジャの口元に運ぶ。 「…で、では……」 ニンジャは躊躇いがちに薄く口を開け、差し出された渋皮煮を食べる。 「…ん、確かにこれは旨いな」 重ね重ね何も知らないニンジャは茶をまた一口啜り、アタルに笑い掛けた。 アタルはニンジャの肩を抱き寄せると、顔を覗き込む。 「い、いきなり如何された?」 「…イヤ、ホントお前は可愛いなぁと…」  … イヤ まだ 薬効いてこないかなぁ と  ニンジャは小さく笑うと、アタルの腕から するり と抜け出し、先程脱いだ割烹着をまた身に纏う。 「ふふ、お誉め頂いても何も出ないがな?」 立ち上がりつつ、本当に重ね重ね何も知らないニンジャは湯飲みに残った茶を一息に呷る。 「…今から夕餉の下拵えをするが、何ぞ食べたい物など有るか?」 「お前を食べたい」 「………アタル殿は、夕食抜き、と」 「Σ…ッ!!!」 ニンジャはアタルの額を指で弾くと、悪戯っぽく笑いかけた。 「…今宵は、アタル殿のお好きな 茄子と絹揚げの揚げ煮浸しの生姜沿えと、青菜の白和えにする」 青菜の筋取りをして参る、とニンジャは台所へと向かってしまう。 「……」  … 即効性では 無いのか …  ならば気軽に待つか、と独りごち、アタルは渋皮煮を口に放り込んだ。 特にする事も無い為、外を見るとも無く見る。 窓の外から ひらり と木の葉が部屋に舞い降り、アタルの横に落ちた。 何の気無しにそれを摘まみ上げるのとほぼ同時に、台所からけたたましい音が響く。 「どうした?」 呼び掛けても返事が無い。アタルは逸る心を抑えながら、台所に向かう。 そこでアタルが見たものは、床に転がる空の鍋と、その横にへたり込むニンジャの姿だった。 「…お騒がせ致した…何だか、急に目眩が…」 立ち上がろうとし、また足が縺れて ぺたり と床に倒れてしまう。 「…風邪であろうか…?……やたら、身体がだるくて……喉も渇く…」 「それはいけないな!!直ぐ布団で横になれ!!」 アタルは喜々としてニンジャを抱き上げ、寝室に運ぶ。 「…アタル殿…何か、随分楽しそうでは無いか…?」 「そんな事は無いぞ」 アタルはニンジャを布団に横たえると、一緒に布団に入る。 「…何を、なさっておられるのか…?」 「イヤ、心細いだろうから添い寝でもな」 「…熱苦しいから止めて下され」 ニンジャはのろのろと躯を起こすと、割烹着に手を掛ける。帯を解く手が覚束無いのか、微かに震え ぱたり と床に落ちた。 汗ばむ首筋に張り付く髪の毛に汗の雫が伝い、珠の様に光る。 「…はぁ…」 唇が乾く感触が気になるのか、ニンジャは僅かに口の端に舌先を乗せ、下唇を撫でる。 そのさり気無い所作の 艶めかしさに アタルは思わず食い入る様にニンジャを見つめた。 それに気づいたニンジャがアタルを見つめ返す…その瞳は潤み、瞳孔が開き掛けている。 「…何で御座るか?」 「…イヤ、色っぽいな、と…」 ニンジャは 口の端を引き上げるだけの笑いを浮かべると、アタルの襟を がっ と引っ掴む。 「…アタル殿……拙者に…一服盛りおった、な…?」 「……!!」  … 流石に 気付かれたか … アタルはその問いには答えず、巧みに動揺を押し隠し、ニンジャの躯を抱き締め布団に押し倒した。 「……ニンジャ…好きだ…」 「……く、は…放 せ……な、何を考えて おられるのだ…」 ゆるゆると首を振り、力無い躯でアタルから逃れようとするニンジャを押さえ込み、深く口付ける…

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