>Rapturous heat

Rapturous heat

 あの方が討たれて、もうどれ程の月日が流れたのであろうか  諸事に忙殺された振りをして、日常の悲しさを紛らわす事はできる。  しかし、夜、冷たい床に就くに当たり、独り寝の寂しさには、相当に月日の流れた筈の今でさえ未だ慣れない。  快楽を教え込まれ、溺れる事を善しとされたこの躯が、時折無性に火照り疼くのをどうする事もできず… 「ん…」 寝間着の襟を割り、胸に手を当てる。冷たい指先で胸の突起に触れると、全身に甘い快楽が痺れの様に走った。 更に快楽を煽る様に、軽く爪を立て、指の腹で圧し潰す様に擦り、空いたもう一方の手を口元に寄せる。 指を僅かに銜え、唾液を絡ませると、その手を下肢に這わせ、昂ぶり始めているモノを緩く扱く。 「あ…ん、ぅ…」 唾液にぬめる指を雁首の周りに伝わせ、根元から裏筋を伝う様にゆるゆると滑らせる。 焦らされて泣いてばかりだった、しかしあの抱かれ方が熟く… 否、泣かされるのさえ、好きだったのだ。 僅かばかり夜闇の部屋に霞む、鈍銀の月明かりに先走りの雫が蕩ろく光る。 「く、ぅ ん ん…」 胸を弄っていた指先を一舐めし、ひくつき疼く後孔に深々と沈めた。その指を蠢かし、少し強く内壁を擦る。 「は、ァ…あぁ んッ」 押し寄せる快楽を、 きゅ と目を閉じ、瞼の裏に灼き付く愛しい男の面影をなぞりながら、満たされない想いと共に貪る。 「…ぁ…は、ぁ ッ…!」 絶頂に達すると、後孔が きゅ と指を締め付ける。迸った雫が、やけに熱く下肢に纏わり付く様に感じられる。 しかし、火照り切った躯に、部屋の空気だけがやけに白寒い。熱を持って乱れる呼気と、総身を伝う汗が一気に冷えゆく気がする。 それが、もはや優しく抱いてくれる腕も、微笑み掛けてくれる眼差しも亡く、自分は一人きりなのだと思い知らされている様で… 浅ましさを恥じる様なやるせない気持ちと ひたすら己を苛む寂しさに 涙が一筋 つ と 頬を伝った…
まさに これぞ秋晴れ と冠するに相応しい、真っ青に抜ける様な空の下、何とも無く街を歩く。 …乍ら、アタルは先日父・真弓と交わした会話を思い出すとも無く思い出していた。 『お前には…その、何だ…イイ人とかいないのか?』 『生憎私は一人でいる気楽さが好きなので…それに、なかなか理想の人というのも』 とうの昔に家督継承を放棄し、それを認められている今、真弓がそういう事を言い出すのは、 長らく独り身で有るアタルへの純粋な気遣いであろう。 それを察しているアタルは、おどける様に両掌を上に向け、珍しく戯ける様に答えた。 『ほう、お前の理想というのはどんな人なんだ』 その答えに、真弓が更に問を重ねる。アタルは ふ と言葉に出して笑うと… 『そうですね、まず、見た目は清楚で、普段着が和服で似合ってて、それでいて割烹着なんかも似合うと最高ですね。それから…』 …以下、冗句粧しつつ、延々と好みについて語り、と、言う訳でこれ程理想が高くて、ど軽口で締め括った。 その答えに真弓は、そんな大和撫子が実在したら自分が嫁に欲しいと巫戯蹴る。 そこにサユリが通りかかって大変な事になったのはご愛嬌だろう。 「…そんな大和撫子が存在したら、ねぇ…やっぱり、いないだろうな…」 呟くとも無く口に出し、小さく息を吐く。独り身の気軽さは捨て難いが、一人が好きという訳では無いのだ。 そして 眩し過ぎる日差しを躱す様に 馴染みの茶寮で一休みしようかと 視線を流したその先に その人は いた 着流した和服も鯔背に しかし風雅な居住まいで 茶寮の縁台に架けて 空を眺めている 結い上げた黒髪が、日に透ける様な白い肌の覗く襟元に映え 視線を揺るがす事も出来ぬ程 目を引く 「………!」  いた。  好みだ なんてものじゃない … まさに理想の和服美人だ … 厳密に言えばその人は男なので鯔背な美青年、なのであって、和服美人 という表現は些か穿ち過ぎなのだが、 今のアタルにはそんな思考は働かない。 呆然と、その人の姿を見つめてしまう。その人は此方に気づく風も無く、未だ秋空を眺めている。 しかしやがて、店舗の中から出てきた茶寮の主がその人に紙包みを渡すと、受け取り、一礼して立ち去って行った。 思わずぼんやりとその人が遠くに立ち去るまで、その背を眺めてしまう。 …が、機と思い立ち、ダッシュで茶寮に向かった。暖簾を潜るのももどかしく、思わず額を軒に打付けてしまう。 「おや、いらっしゃいませ。随分慌てて、如何なさいましたか?」 茶寮の主、ラーメンマンはアタルの余りの勢いに一寸驚きを見せつつも、笑顔で挨拶してくる。 アタルはラーメンマンの肩を がっし と掴み、叫び気味に問い掛けた。 「お、おい!今縁台に座ってたあの人!あの人は…!!」 あの人は、とそこまで叫んでまた 機 と我に返る。あの人は、と聞いてどうするつもりなのだろうか。 「ニンジャさん、ですか?うちを御贔屓になさって下さっているお客様ですが…見かけられた事は御座いませんですか?」 「そ、そうなのか?いや、見かけた事は無いが…」 「鯔背な方で御座いますよ。あの若さで茶道の師範で御座いますからね。うちもお陰様でお引き立て頂いておりますよ」 などと言葉を交わすそこに、また暖簾を潜って来客が有り、二人はそちらを向き直った。 「遊びに来たー!ラーメンマン、寿眉注れてー!」 …いきなり用件を話すドイツ人。そんな典型的ドイツ人のブロッケンJr.である。 珍しくヘッドギアも帽子も外し、華やかな金髪を露にしている。 「…Jr.お前…まず挨拶をしろといつも言っているだろう…」 ラーメンマンの溜息交じりの呟きを聞かなかった事にしたのか、ブロッケンJr.は陳列棚のお菓子を勝手に取って食べる。 「やぁ、ブロッケンJr.いつも元気そうだな」 「んぁ?あぁ、ソルジャーこんちわッス。入り口に突っ立って何してんの?」 思った事をそのまま口に出すドイツ人、容赦無しである。ラーメンマンが持って来たお茶を啜りながらそんな言葉を寄越してくる。 「…私も、今来たところなんだよ」 言われ答えながら、アタルはいきなり自分は店先で あの人 の事について捲くし立てたのかと思い返し、 妙な気恥ずかしさに捕らわれる。 「あ、そうなの?そーいえばさ、さっきそこでニンジャとすれ違ったー。此処来てたのか?」 アタルは、期せずしてブロッケンJr.の口から紡がれた あの人 の名に、思わず びく と反応してしまう。 「あぁ、茶席用の茶をな、取りに来てたんだ」 ラーメンマンは、そんなアタルの様子に気付き、小さく笑いを堪え、答えた。 「そっかあ、そーいえばぴたごらスイッチの時間だ。テレビ見てイイ?」 ブロッケンJr.は若干噛み合わない返事をし、ラーメンマンが返事を寄越す前に奥に行ってしまった。 その背を見送りながら、ラーメンマンが声を掛ける。 「…アタル様、ニンジャさんが気になりますか?」 「!!…そう、見えるか…?」 アタルは努めて冷静を装うかの様に、静かに答えた。しかし、声が掠れてしまっている。 「えぇ、とても」 アタルはまたラーメンマンの肩を がっし と掴み、叫ぶ。 「一目惚れしたっぽいんだが!!」 「その様ですね…しかし、あの方は難しいと思いますよ?」 ラーメンマンはさらりと身を躱し、先程ブロッケンJr.が荒らした陳列棚のお菓子を整える。 「難しい?…って事は、恋人がいるか、もう結婚して身を固めてるって事か…?」 トーンダウンするアタルに、ラーメンマンは静かな口調で言葉を継ぐ。 「…そうではないのですが……悪魔将軍、を…ご存じですか?」 「…悪魔将軍…?…以前スグルが討った、暗黒街の頭領か…?」 暗黒街の一大勢力圏の総領で、悪辣悪逆の限りを尽くした大物である。 アタルは直接相打つ事は無かったが、弟のスグルが対決した事は聞き及んでいた。 「えぇ。そして、あの方はその悪魔将軍の下で悪名を馳せた悪魔騎士の一翼で…悪魔将軍の情人だったのです」 「なッ…!!…先程見た限りではとてもそんな凶悪な様子は無かったが…」 「…今は、闘う事も無く安穏に暮らしている様ですが…しかし悪魔将軍の事は忘れてはいない様で…」 「…で、今は、フリーなんだなあの人は?」 アタルが低く圧えた声で呟く。しかも、喉の奥から籠もる様な笑い声を発している様だ。 「…ふふ…昏い過去と心に傷持つ、清楚な和服未亡人…いいじゃないか…素敵だニンジャさん…絶対オトしてやる…」 「……(未亡人てアナタ…);」 ラーメンマンもあまり素性の良い方では無いが、アタルの暗い呟きに何と無く善くないものを感じ取る。 「と、いう訳だラーメンマン!あの人の素性を洗い浚い吐け!黙っているとために成らんぞ!」 「…何も心に傷持つ人を無理矢理オトす事は無いのでは…」 至極尤もなラーメンマンの発言は無視するアタルに、ラーメンマンは何事か書いた紙切れを手渡す。 開くと Strelitzia と書いてある。 「住所などを漏らす訳には参りませんが…」 あの方の行きつけの店です、とラーメンマンが言うと、アタルは礼もそこそこに店を飛び出す。 その背を見送りながら、止めても無駄だと分かっているラーメンマンは静かに溜息を吐いた…

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